行政手続オンライン化の効率的な実装の取組
はじめまして、経済産業省 DX室の前川浩輝と申します。
今回は二回目の投稿となります。前回の投稿は、主に政府のDX推進にはデジタル技術活用以外に「隠れた難所が存在する」というもので、行政手続のオンライン化や業務効率化等を進めていく上で行政特有のルールや制度を理解して致命的な遅延等を回避しましょうという記事でした。
今回は、全ての行政手続のオンライン化実現の期日である令和7年末までの達成に向けて、私が担当する課室及びシステムの工夫について書きたいと思います。
1.行政手続のオンライン化について
政府では「規制改革実施計画(令和3年6月18 日 閣議決定)」及び「規制改革推進に関する答申 (令和3年6月1日 規制改革推進会議)」により、令和7年末(2025年末)までに民間(国民・事業者等)から行政への手続はすべてオンライン化する方針を定めております。
現在、経済産業省のみならず政府機関全体で取り組んでいるところですが、私が担当する部局や課室も例に洩れず行政手続を所管しており、令和7年末までのオンライン化について取組を進めているところです。
その中でも、約400~約1,000手続を所管する部局・課室では令和7年までのオンライン化が非常に困難であると感じており、その主な理由及び背景は以下のとおりです。
いやはや、悩ましいところです。
やはり物量的に対応するには、「ど根性」ではなかなか対応できないですよね。
2.ローコードツールを利用した内製化
行政手続のオンライン化には、ローコードツール(アプリケーション開発でプログラミング言語を極力利用せずGUIのみで開発するツール)を利用して開発している政府機関や地方公共団体等が最近は多くなっていますが、最近は予算を圧縮するため職員がローコードツールを利用して行政手続を開発(いわゆる内製化。)する事例をよく耳にします。
この方法は、業務を効率化して行政のDXを進める上では、非常に手っ取り早く有効な方策のひとつだと考えています。
しかし、行政手続が20手続程度であれば有効ですが、約1,000手続もの物量がある場合、内製化は可能か?というとこれも難しいと考えています。
それは、内製化を行うための職員へのローコードツールの学習コスト(費用・期間)が必要であり、そのためローコードツールを扱える職員を量産することは現実的に難しいためです。
「ん? となると、もしかして手詰まりということですかね?」
私が2021年12月に経済産業省に着任し、大量の手続についてオンライン化を担当することになった際に、大きな壁として立ち塞がりました。
さはさりながら、諦めるのは簡単ですから、できることはやっていきたいと考えてオンライン化のための検討を進めてきました。
3.行政手続の内容調査と類型化
物量に対応するためには、効率的に実装する方式を考える必要があります。
そこで、まず、約1,000手続の申請・届出様式及び業務フローを確認し、各行政手続を類型化することを検討しました。
その結果、約1,000手続は11パターンに分類することができると分かりました。(※これ以外にも業務フローや様式の類型化を行っていますが今回は割愛します。)
約1,000手続が11パターンになるということで、多少は効率的な実装方法が見えてきたように思えます。しかし、それでも11パターンに集約した約1,000手続は入力項目数も異なるため、この類型化をどのように料理するかは行政手続を増産できるかどうかの分水嶺となります。
4.行政手続のオンライン化を増産できるシステム要件を考える
約1,000もの行政手続をオンライン化するためには、普通に開発していては間に合いません。そして、ローコードツールを職員が習得し自ら開発することは非常に有効であるが、増産するための解決策ではないことも前述のとおりです。
それでは、行政手続の大量オンライン化を実現するためには、どのようなシステムや機能を考えればいいのでしょうか?
あくまで要約ではありますが、汎用的機能の要件を図表3にまとめました。
No.1~3はローコードツールを利用すれば実現可能だと考えますが、手続をどんなに簡易にシステム化できても約1,000手続もの対応は困難であり、問題は解決しません。そこで、No.4を本命として、実現方法の検討を行いました。
5.汎用申請機能について
前述の汎用的機能要件から創出する「汎用申請機能」実現に向け、2022年1月からの検討を経て、2022年4月末に担当するシステムに機能実装し、汎用申請機能を用いて既にいくつかの手続を実装しています。
しかしながら、まだまだ拡張が必要ですので、調査・研究を経て2022年12月末にある程度の機能実装の道筋を整えました。
以下の図表4と図表5が汎用申請機能の概要となります。
図表4は、行政手続を大量に増産するための仕組みとなります。
パラメーター(エクセル)をインポートすることで手続画面等を自動生成する機能をローコードプラットフォームに実装し、職員はエクセルに必要な入力項目や審査フロー定義などを選択しパラメーター(以下「設定シート」という。)を作成し設定シートをシステムにインポートすることで手続を自動で実装し増産することが可能です。
エクセルであるため学習コストは最小限となり、かつ類似の手続は設定シートをコピーしてリバイスするだけで良いので、非常に効率的に行政手続のオンライン化を進められます。
図表5は汎用申請機能で利用できる部品及び個別機能です。
これら部品や個別機能の利用も設定シート内で選択するだけで可能となります。
この汎用申請機能で対応可能な行政手続は約1,000手続中、約6割程度となります。残りの約4割については、年間の申請・届出件数が非常に少なく既に実装している簡易申請機能にて吸収する予定で、多少ではありますがシステム開発が必要な行政手続が残ります。
全ての行政手続を汎用申請で実装することは無理ですが、汎用申請機能を利用することで、令和7年末までの全手続オンライン化に一歩近づいたと考えています。
6.最後に
行政には、このように本当に多くの手続が存在し、皆さんが御利用いただく手続もあろうかと思います。
その分、全ての手続をオンライン化するという困難さもありますが、コロナ禍中の緊急事態宣言時のように行動制限がかかり、紙で申請できなくなったなどの事態を繰り返さないよう、真剣に行政サービスの向上を目指しています。
私も微力ながらですが、引き続き取り組んでまいります。
最後まで御覧いただきありがとうございました。