政府系DX推進には隠れた難所がある? ~政府調達から覗き見るDX担当課室の悩みと乗り切る方策とは~
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政府系DX推進には隠れた難所がある? ~政府調達から覗き見るDX担当課室の悩みと乗り切る方策とは~

METI-DX 経済産業省情報プロジェクト室

 はじめまして、経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室でDX推進マネージャをしております、前川浩輝と申します。

 私は現在、経済産業省の産業保安部門及び資源エネルギー庁の電力・ガス事業部門(以下「担当課室」という。)のDXを支援しておりますが、支援している担当課室も例にもれず、行政手続のオンライン化を進めているところです。

 本日は、政府機関特有の難所を理解し、出来るだけスムーズに乗り切りオンライン化を進めていこうではないか、という内容をご説明したいと思います。

1.行政手続のオンライン化について

 政府では「規制改革実施計画(令和3年6月18 日 閣議決定)」及び「規制改革推進に関する答申 (令和3年6月1日 規制改革推進会議)」により、令和7年末(2025年末)までに民間から行政への手続はすべてオンライン化する方針を定めており、現在、経済産業省のみならず全省上げて取り組んでいるところです。

 私が支援する担当課室でも所管する行政手続は、数千手続になり、そのうち既にオンライン化済みの手続があるものの、全手続のオンライン化までには、まだまだ道は遠い状況です。

 もちろん、DXマネージャ1人が支援(手を動かし開発)しても、とてもこなせる手続数ではないですね。
(※数多くの行政手続をオンライン化するためのシステム化施策はまた整理して別記事として執筆したいと思います。)

 このような状況下において、行政手続を所管する部門では一般的に「政府調達」という手段により、IT開発ベンダーと契約しDXを推進することが多いかと思います。

 しかし、行政機関の職員は所属する部門の業務をするために配属されており、ITに詳しいわけでもないですから、その部分はDXマネージャが支援することになります。

ん?・・・ちょっと待って!

じゃ各部門で行政手続のオンライン化は政府調達でITベンダーをアサインすれば、問題なくDXは進むのではないの?」 ・・・ と思いました?

 はい、それはそうなのですが、これについては、Yesでもあり、Noでもあります。

それを順番にご説明したいと思います。

2.政府調達について

 まず、「調達」というと、政府だけに思われるかもしれませんが、民間企業でもシステム開発を行うために協力会社の調達を行いますよね。
民間企業なら下表のようなアプローチで協力会社等をアサインし開発を進めるかと思います。

 政府機関でもアプローチとしてはそれほど変わりませんが、手続内容及び必要な期間は大きく異なりますので、わかりやすく下表にまとめました。
(※下表はあくまでもわかりやすく示したもので、民間企業それぞれの社内規定等により多少事情は異なるかと思います。)

<図表1 民間企業と政府系の調達比較>

 民間企業にお勤めの方は、「政府系機関の場合」をご覧になってどの部分がびっくりされたでしょうか?

①でしょうか?②でしょうか?それとも③でしょうか?

 ①については、皆様もよく御存じのとおり、政府全体の予算を審議するのは、毎年1月からの通常国会となりますが、その前に省内調整及びデジタル庁調整、財務省調整等の事情もあり、各省の予算要求の取りまとめの時期は毎年6月末~8月末といわれています。
 このプロセスはテレビでもよく報じられているため、皆様も聞いたことがあるのではないでしょうか。

 びっくりポイントとしては、②ではないかと思っています。(※①も多少はやっかいですが・・)

 ②の何が問題なのかを以下に挙げてみました。
(※ただし、「政府調達」の性格上、高い透明性・公正性を担保する必要(ルール)があるため、期間が冗長となる等、避けて通れない事情があります。)

(1) 調達手続き開始からITベンダとの契約開始まで、4カ月~半年(開発  
    規模により異なる)程度のリードタイムが必要となる。
(2)そのため、調達方式別の適切な期間を意識して前もって動き出さない
   と、目的の開発開始時期が大きくずれ込む(遅れる)。
(3)大きくずれ込んだしわ寄せは、調達方式の見直しや契約した開発ベン
   ダーにいく。
(4)担当課室の職員でも政府調達に係る入札等手続を理解している人が少
   ない。(※人事異動も多くノウハウがたまらない)
(5)担当課室の職員は現業優先のため、適切な調達行程を意識して動けな   
   い。

 これを御覧になっている民間企業にお勤めの方は、「そんな大げさな話ではなく、職員がちゃんとやればいいだけじゃん」と思われるかもしれませんが、これが何かと面倒なのです。

 では、上記の(1)~(3)の起因となる、政府調達方式の構造を下表のような早わかり表にしてみました。

<図表2 政府調達方式別の調達手続について>
※「ー」は調達方式として選択不可(対応していない)の箇所となります。(※条件付例外がある場合がありますので番外編で後述します。)
※SDRとは:一般的に「特別引出権」と訳される。WTO政府調達委員会の決定(1996年2月27日)に基づき、邦貨換算額は、直近2年間(2020年と2021年(暦年))のIMF統計による  円/SDR(特別引出権)レートの平均値を用い、2年毎に見直しされている。
※SDR基準額:政府調達に関する自主的措置におけるSDR基準額の円貨換算レート

 早わかり表にしたつもりですが、それでもわかりにくいですよね。
 民間企業の方は「これどう見るの?」って感じですよね?

 政府調達については様々な資料がありますが、わかりやすく簡単に制度の大枠から理解できる資料が少ないことも、担当課室職員の理解が進まない要因の一つかとかと考えております。
 初めて政府調達に接する職員ならなおさらですね。

 このような事情もあり、私が着任した際に真っ先にこの資料を担当課室の職員に共有し理解してもらうようにしました。というのも、調達規模によっては、これらを理解し動き出してからプロジェクト開始まで半年以上もかかることもあるためです。

 それでは、もう少しわかりやすく、例として調達規模(予算額)が、8千万円の場合と2億円の場合の一般競争入札の流れを説明します。

3.政府調達の一般的な流れ

 下表は、調達規模(予算額)が8千万円の場合2億円の場合の一般競争入札の流れです。調達規模(予算額)によって、「調達方式」が変わり、「公告期間」も違います。

<図表3 政府調達の一般的な調達スケジュール>

 設計・開発のような単年度で終わるプロジェクトならいいのですが、数年間に渡るシステム運用・保守の調達の場合、毎年この対応が必要です。
(※ただし、詳しくは触れなせんが、調達期間が複数年に渡る場合、国庫債務負担行為を活用し複数年契約も可能です。)

4.政府調達を踏まえたシステム化の理想的なマイルストーンと落とし穴

 それではもう少し実務的な観点で全体の調達スケジュールを考えてみましょう。例えば、行政手続のオンライン化を進める場合、下表のような進め方だとします。

 <図表4 オンライン化のフェーズと調達規模例>

 これを年表で表現してみると下表のような全体のマイルストーンとなります。(それにしても長い旅だ・・・。)

<図表5 システム化全体マイルストーン>

 
 「わー、うまくいくスケジュールでいいじゃないですか。」と思いますよね?

 もちろん、このスケジュール例は期間に余裕を持たせてスムーズに進む成功例となりますが、お分かりのとおり、予算要求及び調達手続のタイミングが一歩間違えば、システム化計画が全て狂う可能性もあり、一例として以下のような事態が考えられます。

 なお、職員は開札後のプロジェクトのITベンダー管理等も行うわけですから、気が回らなくということも多いです。
そして、職員は調達だけ対応しているわけではないですから、普通に遅延等が発生する可能性があります。

<図表6 遅延等発生事例と陥る事態例>

 これでは、DX推進どころではないですね。

 特に②の陥る事態で期間短縮のために、理由や根拠が薄いまま短期で開札可能な調達方式(企画競争等)を選択する場合は、後になって調達方式の妥当性等について、いわゆる入札等監視委員会や会計検査院等から説明を求められる可能性があるため注意が必要です。

 このような事態に陥らないためにもどのように対応・対策をすればいいでしょうか?

 あくまでも私見ではありますが、説明したいと思います。

5.政府調達のマネジメントツール整備と担当課室の態勢強化

 行政手続のDXを進めていくにあたり、政府調達は避けて通れないこと、そして政府調達を計画的でかつ、ある程度のパワーをかけて対応しないといけないことは、前述までの説明でご理解いただけたと思います。

それでは、政府調達をタイミング逃さず適切に対応するにはどのようにすればいいのでしょうか?

対応策は2点あると考えております。

1点目が、「DXマネージャがしっかり管理していくこと!」です・・・・。

えー!?ここまで読んでそれかよー」という声が聞こえそうなので・・・

改めて申し上げると、DXマネージャとして下表のマネジメントツールを整備し「しっかり管理していく」ことが大事です。

<図表7 政府調達のマネジメント整備と内容>


 2点目
ですが、「担当課室の態勢強化」です。

 下図の取組は一例ですが、各部局・課室内でDX推進チーム(バーチャル)を横断的に組成し「態勢強化」の取組を行っております。

 チーム内の情報共有や、各課ごとの専門性等をスムーズに取り入れることもでき、何より明確な「ミッション」が各職員に落ちるため、プロジェクトの進捗や政府調達の落とし穴等にも敏感になります。

 そして、思わぬ事態に陥っても組織全体でカバーできるようになります。

<図表8 DX推進チームの一例>

 この組成案自体は目新しくはないですが、組織の基本である、報告・連絡・相談が出来ていない組織はどこかで、つまずきますので、縦割りよりも横断してメンバが集まりプロジェクトを動かすことは有意義ではないかと考えております。


6.最後に

 本記事で説明した内容はDX推進の本丸ではありません。

 しかし、本丸にたどり着くためにいかにスムーズに、そして事故なく進めるかは非常に重要なことだと考えております。
 そのため、政府調達事務の落とし穴をできるだけ排除し、担当課室がオンライン化の「本丸」の醍醐味をいち早く味わえるように今後も取組を続けたいと考えております。

 なお、本記事の内容は各省DXを支援いただいている又はこれから支援をご希望になられているITベンダーの企業様におかれましても大枠で理解していただきたい情報となりますので、これら状況を御理解いただいたうえで、各省支援をいただければ幸甚です。

 最後まで御覧いただきありがとうございました。


(番外編①)10万SDR以上80万SDR以下の調達案件でも総合評価にできる? その根拠は?

 「図表2 政府調達方式別の調達手続について」に記載のとおり、調達規模が10万SDR以上80万SDR未満は、原則として一般競争入札で最低価格落札方式の調達となります。
最低価格落札方式ですから、入札の際に一番価格の安い事業者が落札することになりますね。

 それでは、10万SD以上80万SDR未満の調達案件は総合評価落札方式で入札公告することはできないのか?

 答えは「No」です。もちろん総合評価方式で入札公告を行う道はあります。

 ただし、調達手続の直前になって、「総合評価にしたい!」となっても既に遅い場合があります。
それは、「原則」最低価格落札方式とすることが定められており、条件付きで総合評価落札方式が可能だからです。

 その条件は、「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン解説書(第3編第6章 調達)」に以下のように記載があります。

 つまり、入札公告の30日前には、会計課を通じて財務大臣に届け出る必要がありますので、調達手続期間はもっと延びますし、それを理解した上で調達計画を策定する必要があります。

(番外編②)政府調達制度も徐々に良くなっている?

 今回、赤裸々に綴った、政府調達については、透明性や公平性を担保するため、調達手続が冗長となる点など、昔から様々な問題点が指摘され、有識者の方々の提言や研究レポートが多く出されてきたことにより、徐々にではありますが、変わってきていることも事実だと個人的には思っております。

 その例として最近では、令和2年に試行運用された「技術的対話等による調達方法」については、「予算要求の段階から仕様を詳細に確定させることが困難な場合もあるため、行政と事業者が一丸となって価値を生み出すためには、発注者たる行政と受注者たる事業者が政策課題を共有し、対話を通じて相互理解を深 めた上で契約することが重要である。」として、事業者と行政が協議を繰り返し適切な調達仕様書を作成するスキームが採用されました。

 本当にゆっくりですが、変わってきていますかね?


以上

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