デジタルガバメント・ジャーニー (4) 要件トレース実践編
デジタル化推進マネージャーの長田です。
前回記事では「デジタルガバメント・ジャーニー (3)」では、
リスクマネジメント実践編
として、行政サービスを含むプロジェクトに対し、安定さと安寧さをもたらすためのリスク・コントロール術を独自の視点で書かせていただきました。
今回は第4弾として、期待値通りの成果を得るための「要件トレース実践方法」について、触れていきたいと思います!
1. 要件トレースを行う目的(=高品質を作り込む)
要件トレースの実践方法の前に、まずは目的を明確にします。システムにおいてもデータ利活用においても、全てのプロジェクトは結果として得られるものの完成度が重要と思います。特にものづくりにおいては失敗に失敗を重ねて成功に至ることが多いですが、限られた予算と期間ではなるべく失敗は少なくしていくことが求められます。
では、失敗とは何かというと「要求事項との不適合」つまり「品質が悪い」という状態です。
ここで、品質について少し体系的に整理します。一般的に「品質コスト」という考え方があり、下図のように分類されます。
理想的には「適合コスト85%」と言われていますが、実態としては「適合コスト45%程度」に留まっていると言われています。
これには様々な要因が想定されますが、少なくとも評価コストを効率的にかけていくことで不適合コストを低減することが可能と考えます。
2. トレーサビリティチェック
評価コストを効率的にかけていくための手法の1つとしてトレーサビリティチェックというものがあります。
システム開発の工程は、アジャイル型でもウォーターフォール型でも、要件定義→設計→プログラミング→テストという流れが一般的です。そのため前の工程に漏れがあると、次工程以降に影響が出る可能性が高くなるため、それを防ぐ目的で開発前後のドキュメントと成果物とを比較・チェックします。これをトレーサビリティチェックと呼びます。
一般的にはトレーサビリティ・マトリクスを使って着実な成果を追い続けますが、これは漏れなく全ての事柄を記載・修正を続けることとなり、非常にコストがかかります。
そこで、この要件トレースをより実践的に行う手法が必要と私は考えます。
3. 要件トレース実践方法
繰り返しになりますが、評価コストを効率的にかけていくことが必要となるので、レビューやテストに割くコストを高めるかが重要となります。
先に説明したトレーサビリティ・マトリクスは前進・後退を繰り返すトレース・フォワードなやり方となるため、戻る分だけコストが嵩んでしまいます。
そこで逆転の発想として、トレース・バックなやり方をとることが有用と考えます。
4. プロジェクト開始時に期待値を明確にする
要件定義工程ではあらゆるものが明確になっていないため、要件定義書も曖昧になりがちですが、唯一明確になっているものは発注者の期待値(期待する動作)です。
しかし、技術的に実現可能か分からなかったり、まだ先のことではなく目先の業務を優先したり、様々な言い訳をつけてその期待値すら曖昧になっていることが実態でしょう。
よって、要件トレース実践方法の初手は「発注者が明確な受入テスト仕様書を作成する」ということです。
この”明確な”には、期待する動作よりも期待しない動作を十分に多く記述することがポイントです。(比率的には、理想(85%)に対し実態(45%)なので、期待する動作:期待しない動作=1:2くらいの比率でテスト項目を設けるべきでしょう。)
※繰り返しますが、作成するのは発注者です。期待値を持っているのは発注者しかいないためです。
そして、作成された受入テスト仕様書をもとに、
要件定義書が妥当かをチェックする
総合テスト仕様書を作成する→基本設計書の妥当性をチェックする
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つまり、V字モデルを逆に遡っていく(未来からトレース・バックする)イメージです。
しかし、プロジェクトの安寧さは要件定義工程にかかっているとはいえ、やはり未来を見通すことは非常に難しいことであるのも事実です。
何度も繰り返しますが評価コストを効率的にかけていくためにも、開発ベンダーや内部のテクニカル・アドバイザーを駆使し、明確な受入テスト仕様書を作成して、要件トレースのスタートラインを作っていければと思います。