生成AIによる政府調達の変革:試作から学ぶ業務効率化のポイント
経済産業省が生成AIの力で調達業務を革新!
行政官、県庁から参加した仲間、民間出身者の熱心なメンバーが協力して、長年の課題であった調達プロセスのスリム化に挑みました。
皆で力を合わせ、これまで多くの時間と労力を要してきた調達業務の時間短縮と効率化を目指しました。生成AI技術を駆使して調達仕様書作成を支援するプロトタイプは、この分野の革新的なブレイクスルーとなり、チームワークと技術の融合が、調達業務の新たな時代を切り開く重要な一歩となりました。
● 政府調達(IT調達)とは?
政府調達とは、政府や公共機関が公共のサービス提供や自身の運営に必要な商品やサービスを民間企業などの外部から購入する行為のことを指します。これには、オフィス用品、建設工事、システム構築・運用など、多岐にわたる商品やサービスが含まれます。政府調達は、透明性、公平性、競争性といった原則に基づいて行われており、適正な手続きを通じて最もコスト効果の高い提案を選定することが期待されます。
本調査プロジェクトでは、生成AIを活用した業務効率化の取り組みにおいて、特に現場での課題感が強く感じられる「システム構築・運用」の調達プロセス(IT調達)を対象に絞り調査を実施しました。
● 経済産業省における政府調達の現状と課題
① 現状のシステム調達について
経済産業省でのシステム調達は、規模にもよりますが、標準的に約8ヶ月の期間を要します。この期間には、いくつものプロセスが含まれています。
システム調達では、システムの仕様や要件を明確に定義する必要があります。これには、上流設計の経験はもちろんのこと、政府内のシステムに関する制約を考慮した記述が求められます。経済産業省には70以上の既存システムがあり、それぞれに対してこのような企画と仕様の設計が必要となります。(参考:経済産業省の情報システム)
② 現場の課題感
事前のインタビューから、システム構築・運用に関する経験や業務知識を持つ有識者の不足、及び担当する行政官が他業務も兼務しているため、専業で調達業務に注力できないという時間的制約の問題が浮き彫りになりました。
<現場の課題>
・調達仕様書を作成するのに20~50人日の工数がかかること
・業務システムに関する専門的な知見の不足
・システム調達に関する知識や専門家の探索が困難
● 生成AIによる課題解決へのステップ
これらの課題に対処するため、検討すべき点が数多くあります。その中でも解決策を模索するにあたって、私は最終目標(考慮すべき論点と実現すべきビジョン)から、入力とプロセスの選択に至る手順、これらの実現可能性とバランスの重要性を考慮して特に効果的と思われるのは、4点です。
<課題解決のためのステップ>
・調達仕様書の作成支援
・システム調達に関わる詳細な規則や過去のデータへの参照を含む情報の整理
・担当するシステムに関連する知識の統合
・部門間で共有される調達ワークフローの樹立
業務分析の結果から、調達仕様書の作成は集中すべき項目と定型的な項目に分けることが可能であり、必要な文章をシステム要件として提案することで、作成速度の向上と品質の高い仕様書が得られる可能性が高いことが明らかになりました。この分野は生成AIや自然言語処理(NLP)と非常に相性が良く、将来的には文書を省内での構造化データとして整理・蓄積することにより、業務品質のさらなる向上が期待できます。
このため、課題解決のアプローチとして、調達仕様書の作成支援による業務の効率化(アウトプット)、生成AIおよびNLPの技術を活用する(プロセス)、そして過去の調達仕様書を経済産業省の貴重な資源として整備・蓄積する(インプット)という戦略を立て、調査プロジェクトを開始しました。
● プロトタイプ開発の結果と次プロジェクトへの期待
調査プロジェクト(本プロジェクトでは“仕様書AI”と呼んでいました)の中心には、以下のステップが含まれます。
・プロトタイプの範囲定義
プロジェクトの初期段階では、プロトタイプで実現する機能の範囲を明確に定義することから始めました。調達仕様書の作成準備から入札公告に至るまでのプロセスを詳細に分析し、予算規模や契約方式などに基づく複数のパターンに分けて整理しました。この段階で、調達プロセスの複雑さと多様性を改めて認識しましたが、効果的な業務改善を目指し、最も効率化の恩恵を受けられる分野へのアプローチを熟考した結果として、プロトタイプで実装する機能を調達仕様書の作成とセルフチェック機能に絞り込みました。
・プロトタイプ機能
今回作成したプロトタイプは、仕様書の執筆と審査の機能を有しています。
執筆支援
・従来の手順を脱却し、必要な情報を問診する形式で仕様書を作成。
・ユーザーが箇条書きで入力した要件から、システム要件に沿った文章をAIが自動生成。
・追加すべき項目や修正すべき点を、定型プロンプトをユーザーにレコメンド提示。
審査(セルフチェック)
・冗長な表現や繰り返し表現を指摘し、ガイドライン準拠を確認。
・省内の既存ルールに基づくチェックリストを機械的に判定。
次年度以降の展望
プロトタイプの導入と初期のフィードバックを踏まえ、精度とUIの改善を見込んでいます。
・精度の向上
文章生成の精度向上、仕様書データベースの充実、セルフチェック機能の精度向上を図ります。
・UXの改善
より直感的で使いやすいインターフェイスの開発に努めます。これらの改善を通じて、調達仕様書作成業務の効率化(時間短縮と品質向上)を実現し、最終的には業務プロセスにおける定着を目指します。
● プロジェクトを通じて学んだ点
・調達業務の複雑性についての理解
このプロジェクトを通じて、調達プロセス自体が複雑で、仕様書作成に多くの職員が難しさを感じているだけでなく、ひとことに調達といっても幅広いバリエーションが存在することが明らかになりました。特に、特定の時期に審査の依頼が集中することにより、依頼者側・審査側の負担が増大するなど、多くの課題が浮き彫りになりました。これらの問題を具体的に理解できたことは、プロジェクトの重要な成果です。
・生成AIを業務適用するにあたっての懸念
また、生成AIという革新的な技術を導入に対して、利用者側にはある程度の不信感や疑念があることも感じ取ることができました。これには、技術への信頼性の欠如、不確実性への懸念、情報漏えいのリスクなど、さまざまな要因がありますが、変化に対する抵抗感が特に顕著であると思います。
これらの懸念に対しては、まずは技術や使い方への理解を深めるのが出発点であると捉えています。生成AIの進化に伴い、これらの不安を解消するためには、教育や対話の機会を提供することがさらに重要になってくると考えています。
経済産業省内でのAI・DX推進は、業務オペレーションでの課題に対して、デジタルな解決策を提示して初めて役に立つもので、今後も現場の意見や想いをしっかりとヒアリングし、課題やニーズを把握したうえで進めていくことが肝要だと改めて思いました。
現場に寄り添ったDXを進めていき、現場の方にデジタル化による恩恵をより享受していただけるようにしたいと思います。
● 謝意
協力いただいた経産省 各課室・情報システム室・会計課の皆さんへ…
最後になりますが、今回の調査事業を実施させていただくにあたり、通常業務がお忙しいにもかかわらず多くの皆様の本調査への積極的なご協力、誠にありがとうございました!
今後も現場ニーズをしっかりと把握したデジタルサービスを届けることで、今回頂いた様々な業務課題を解決し、業務負担を軽くしていきたいと考えております。