行政手続デジタル化本音シリーズ- 日本の社会インフラを支えるDX
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行政手続デジタル化本音シリーズ- 日本の社会インフラを支えるDX


電気・ガスなどのエネルギーの安定供給や港湾・空港における輸出入の管理――。日夜私たちの暮らしや社会を支えている仕事の一例です。安全確保などの観点からこれら業務を遂行する事業者が、必要な要件や資格を満たしていることを審査・認定したり、法規制に則って業務を遂行しているか監督したりする役目は、経済産業省が担っています。しかし職員の高齢化と次世代へのノウハウ継承、より効率的な法執行といった課題の解決が急務。

経済産業省におけるDXの取り組みをレポートする本シリーズでは、本省の行政官、全国の各地方局、開発パートナー企業とともに申請手続きのワンストップ化や、蓄積する知見のデジタル化/データ分析環境の整備に取り組むデジタル化推進マネージャーの池和諭さん、曽原健史さんに話を聞きました。


1.入省までのキャリア

ーはじめに入省までのキャリアと現在取り組まれていることを教えてください。

曽原 私は、大手インターネットサービスプロバイダーでインフォメーションアーキテクトとして顧客向けサービスの顧客体験の改善などを担当した後、教育関連企業で事業責任者を務めました。「行政」という未知のフィールドで、民間企業での知識や経験を活かせればと考え経済産業省に転職したのが2019年6月です。

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デジタル化推進マネージャー 曽原健史さん

情報プロジェクト室に加わってからは主に、産業保安・製品安全に関する法令手続きを電子化した「保安ネット」および資源エネルギー庁の電力・ガス事業部が所管する法令手続きの電子化プロジェクトのプロダクトマネージャーを務め、ユーザーの視点に立った行政のDXに取り組んでいます。

 私が入省したのは2019年7月です。それまで外資系のIT企業やコンサルティングファームなどでERPの導入やSCM(サプライチェーンマネジメント)システムの構築支援を手がけてきました。その後IT系のスタートアップ企業に転職してAIシステムの導入案件などを担当しました。

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デジタル化推進マネージャー 池和諭さん

仕事柄、インド、中国、ベトナムなどオフショアのエンジニアと協業する機会が多かったのですが、このままでは早晩ソフトウェア開発の分野で日本は新興諸国に追い抜かれるな、と危惧しました。そうした課題意識がある時にデジタル化推進マネージャーの募集を知り日本の状況を少しでも変えられればと応募しました。仕掛中の案件もありますが、現在主に貿易管理、給油所(ガソリンスタンド)における許認可・監督行政に関わる業務システムのプロダクトマネージャーを担当しています。

2.急がれる省内業務効率化とノウハウの継承

暮らしや社会を縁の下で支える諸事業に関連する行政手続きは、経済産業省および全国10拠点の地方経済産業局や地方監督局(以下、地方局)と連携して行われています。全国各地の事業者が行政とやりとりする際の窓口は地方局になります(地域をまたぐ大規模事業については本省扱いになることもあります)。開発プロジェクトでは窓口となる行政機関の要望を受け止めながら進められます。

―― お二人にそれぞれ現在、取り組まれている領域の課題と進展状況についてうかがいます。池さん、いかがでしょう。

 まずは省内における業務の見直しについてです。貿易管理は既存システムの使い勝手や柔軟性に限界が見えていました。事業者からの問い合わせや申請のルートが複数生まれて処理が輻輳し、紙を中心とする業務に職員が奔走していました。貿易の際に輸入品に危険物が含まれていないかといった確認は国の安全保障にも関わる重要な仕事です。

輸出業者からの申請書類を迅速かつ適切に確認する通関と呼ばれる一連の手続きは諸外国にはすでにデジタル化が前提となっています。給油所関連業務についても同様の課題に悩まされていました。そこで従来ExcelやAccessで管理していたデータを、省内で共有できるようデータベース化する取り組みを順次進めています。また、職員が手書き文書を見てパンチング入力していたデータ入力業務をAI-OCRを用いて自動入力する仕組みを2021年度中に導入する計画です。

2点目の課題はベテラン職員のナレッジの若手職員へ移転です。貿易管理も給油所の行政業務もいずれも高度で広範な専門知識と、豊富な経験値が不可欠です。しかし地方局の方が高齢化し次の世代にそのノウハウを伝えないと実務が滞りかねない状況です。引退前の残された時間は限られ、解決が急がれます。

3.課題のもう1つはユーザーに対する利便性の提供

 そして、地方局や事業者が利用する行政手続きシステムの利便性向上に向けた改善です。貿易管理では輸出入業者にとって必要な情報がWebページに掲載されているのですが、どこにあるのか見つけにくい構造でした。そのため事業者からの電話問い合わせ対応に職員が追われ、審査などの業務に手が回り切らない状況でした。そこで事業者が知りたい情報を見つけやすいようにUI/UXの再設計を進めています。
一方、給油所の手続きについては、事業者が利用する電子申請は、2021年度にはまずは本省が取り扱う電子申請からスタートし、その後地方局向けに展開していく予定です。

―― 曽原さんが担当する産業保安・製品安全グループや電力・ガス事業部のほうの課題や進捗状況はいかがでしょう。

曽原 池さんの話に通じる点がありますが、産業保安・製品安全グループでも、行政手続きの効率化が課題でした。たとえば電力安全の分野では、電気事業法に基づく法令手続きは紙の申請書で行われていました。それら産業保安・製品安全分野における法令手続をデジタル化するために開発したのが「保安ネット」です。

保安ネットは、産業保安・製品安全法令に基づく申請手続きをデジタル化する電子申請システムです。2020年3月時点で、年間25万件以上にのぼる6分野(電気、LPガス、都市ガス、火薬類、鉱山、製品安全)の法令に基づく主要手続きを電子申請サービスとして利用できます。

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保安ネットの活用イメージ


保安ネットは、2020年1月から運用を開始しました。通常のwebフォームでの申請に加えて、電子申請件数が多い事業者からは申請情報を特定データ形式で一括提供してもらうなど連携を図り、2021年1月断面でのオンライン化率(紙および電子申請件数全体に占める電子申請件数の割合)は75%を超える程になるなど成果が出始めています。

一方、電力・ガス事業部では私が入省してまもない2019年7月頃、電子化の取り組みが緒に就いたばかりでした。毎月全国の関係機関や事業者など1500社以上から入手するExcelファイルの報告書類の集約作業に本省の担当者が苦労されていました。現在、課題解決に向けた新システムのプロトタイプを開発しているところで、2021年度中には膨大なデータの迅速な集約が可能になる見通しです。

4.ステークホルダーが一丸となって取り組むには

全国各地のさまざまな関係機関が利用するシステムの開発。どのようにして地方の担当職員の方から意見や改善要望をもらい、プロダクトに反映しているのでしょうか。二人に聞きました。

 システムは本省で開発しますが、主たるユーザーは事業者との窓口となる地方局です。行政側の申請手続きの仕組みづくりは、ユーザーである地方局をいかに巻き込んでいけるかが重要だと考えています。ただし、いきなり地方局にシステムのプロトタイプを見せるのではなく、まず本省の担当官にレビューしてもらいます。そこでバグをあらかた潰し、地方局の皆さんに展開していく、というのが基本的な流れです。

曽原 保安ネットの開発プロジェクトでは、地方監督部の職員の方々にご協力いただき合宿をおこない、監督部の皆さんの現状業務課題の洗い出し、あるべき姿などについてじっくり議論を行いました。そこで出た意見を吸い上げその後、実際に動く画面のプロトタイプなどを定例会議や説明会で説明をおこない、実際に操作して貰った上で改善点などをフィードバックして貰いました。

システムをローンチした現在も定期的なオンライン会議などを通じて要望や意見を集約し、定常的に改善し続けている状況です。

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保安ネットの職員が利用する管理画面のUI

―― プロダクトに関する合意形成はすんなりいくものでしょうか。

曽原 率直に言うと簡単ではないですよ。たとえば、地方の気候や地理的な条件が異なる中、適切な保安維持を行うため、同じ申請だとしても業務上注視する部分が異なることが往々にしてあります。「うちはこういうふうに仕事をしているので、それを反映してほしい」といった個別の要望もしばしば出ます。要望をできるだけ取り入れつつも、あまり例外処理を設けないようにどうシステムに落としこむか。反対にユーザーの要望を削り過ぎてクオリティや満足度が下がると現場にストレスが溜まります。そのバランスに注意しながら調整を進めています。

 私も同感です。ユーザーの年齢やITリテラシーはさまざまで、この道何十年というベテランの方も多数います。新たなシステム環境でみんなに気持ちよく仕事をしてもらいたいのですが、「これまでのやり方を否定されている」という思いが湧く心理もわかります。プロジェクトには予算やスケジュールが決まっているため、どこかで結論を出さないと前には進みませんが、ユーザーの思いはいつも意識していますね。

5.システムをAPI連携し、データ分析による価値創出も視野に

―― 行政システムは今後どのような発展をしていくのでしょうか。担当しているシステムについてお聞かせください。

 開発しているシステムは現在、1つのID/パスワードで複数の行政サービスにアクセスできる法人共通認証基盤「GビズID」を用いた認証システムにほぼ対応が完了しました。今後はさらに、API連携により民間を含むさまざまな外部システムとデータをやりとりしていく見通しです。貿易管理の業務システムはこれまで外部連携はほぼなかったのですが、世界の潮流はすでにデジタル処理とAPI連携がデファクトスタンダード。そして審査過程で集積したデータを分析するなどデータ利用により価値を出していくフェーズに入っています。データ品質の整備を進め、貿易取引の審査などでベテランの経験だけに依存せずAI分析を活用することで適正に、かつ効率よく進める方針です。プロックチェーンを活用したデータの改竄防止などのセキュリティ強化なども視野に入れています。

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GビズID活用イメージ

曽原 データ活用は私の担当する分野でも共通します。たとえば、事業者が保有する電気工作物の安全確認のための定期的な立ち入り検査では、検査対象数が膨大にあるためこれまではベテラン職員の方が経験に基づいて適切に立入検査先を選定し検査を行ってきましたが、今後はベテラン職員の経験に裏打ちされた判断基準などをデータ化し、申請情報に加えて、他の情報などと掛け合わせる事で高度化し、経験の浅い職員でも適切に検査対象を選定することで効率的な立入検査の実現事故発生確率の低減に向けた検討を進めています。

それから各部署や地方局が保有するデータの連携も重要です。たとえば私がプロジェクトを担当する電力・ガス事業部が保有する各事業者のエネルギー供給能力と、産業保安グループが保有する保安対象設備などの情報を連携させると「どの電力事業者はどれくらいの電力の出力量を持っていて、どこが保安し、どのような状況になっているのか」といったことがわかります。災害時のエネルギー確保などに必要な迅速な情報収集状況把握復旧の迅速化という観点でもこれらは重要と考えています。

6.1を100にしていく仕事

―― 最後にデジタル化推進マネージャーとして、面白さとやりがいはどんなところにあるか教えてください。

曽原 行政官の皆さんはすごく優秀で一をいうと十を理解してくれる感じで、正直仕事がすごくしやすいです。とはいえ職員の方々の業務量は私の想像を遥かに超えていました。業務の効率化などにより、優秀な能力を本来注力すべき部分に投じられるようになると、もっと行政の質が向上していくように思います。

 貿易管理にしても給油所のシステムにしても全国の多くの事業者が申請などに使っています。行政の仕事が社会に与えるインパクトの大きさと責任を感じます。ただ世界のIT先進国から見ると残念ながら日本のデジタル化、特に行政は遅れをとっています。ただ、それだけ伸び代が大きいともいえます。仕事には99を100にするようなレベルでしのぎを削る分野もありますが、行政では1を100にするような余地がまだまだあります。それだけ高い付加価値を出せるチャンスがあるという意味ではやりがいがありますね。

曽原 行政のワンストップ化など、過去に何度も多くの人が挑戦してはうまくいかなかった経緯があると聞いています。口で言うほどたやすくないことを承知のうえで、僕たちデジタル化推進マネージャーの顔ぶれが替わっても、常にそのゴールに向かい続けてほしいですね。

 そうですね。私のデジタル化推進マネージャーとしての任期はあと1年ほど。それまでに自分がこれをやった、と言えることを1つでも増やしていきたいと思っています。

エネルギーの安定供給、製品の生産や設備の保全、そしてサービスの提供――。重要な責務を果たす全国各地の事業者と経済産業省、地方局が連携して進めるDX、皆さんどう思われましたか。進展すれば安全・安心な暮らしを守る行政に、新たな地平が開かれることになりそうです。


インタビュー日:2021年3月2日
*本レポートの内容は特筆する場合を除いてインタビュー時点の情報に基づきます。

ありがとうございます!
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