コミュニティの面白さを感じたら あなたはもう「行政」の当事者です
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コミュニティの面白さを感じたら あなたはもう「行政」の当事者です


経済産業省におけるDXの取り組みをレポートする本シリーズ。今回は、DXを進める上で欠かせないコミュニティと行政の関わりを取り上げます。シビックテック(市民自らテクノロジーを活用して暮らす地域や社会をよりよくしていく取り組み)やGovtech conferenceの企画運営に携わってきたデジタル化推進マネージャーの酒井一樹さん(当時)、またWeb技術の国際標準化、セキュリティやIDに関連する多くのコミュニティ活動に参画してきた林達也さんに話を聞きました。

1.経産省がGovtechに本気を出した2018年

―― はじめにお二人に経済産業省へ入省するまでのキャリアと、取り組まれていることをお聞きします。

酒井 2016年に入省し、商務情報政策局 情報プロジェクト室に配属されました。前職の民間企業では主にサーバーやネットワークの構築を専門とするインフラエンジニアを務めてきました。情報プロジェクト室の配属当初は、旅費精算システムの運用、開発、保守などに携わってきましたが2018年頃から本格的に情報プロジェクト室がデジタルガバメントいわゆるGovtech(ガブテック)推進に舵を切り始め、その一環でGovtechの広報事業をメインに担当するようになりました。

2019年から経済産業省が主催するGovtech conferenceが開催され、僕は主に裏方として企画運営をIT面などからサポートしています。

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(当時)デジタル化推進マネージャー 酒井一樹さん

 2020年6月からデジタル化推進マネージャーとして週2日勤務しています。メインの業務は法人デジタルプラットフォーム (注1)の整備などに取り組む満塩尚史 政府CIO補佐官のもとで進める、セキュリティや認証・認可、プライバシーなどの技術的見地からの調査・企画検討です。

経済産業省の情報プロジェクト室で仕事して思うのは、「行政」らしからぬとても自由な雰囲気だということ。僕のようにフルタイムではない働き方もそうですが、席はフリーアドレス、SlackやTrelloのようなツールを使ったコミュニケーションなどスタートアップ企業みたいだなと思います。

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デジタル化推進マネージャー 林達也さん

―― 林さんはご自身、企業経営者という顔もありますが、デジタル化推進マネージャーになるきっかけなんだったのでしょうか。

 率直に言って僕は「DX」とか「◯◯テック」とかメディアでもてはやされるバズワードが嫌いな人間です。一方で、シビックテックに真摯に取り組むCode for Japanなどのコミュニティや、世の中をテクノロジーでもっと良くしていこうと地道に頑張っている人たちが身近にたくさんいます。

僕はかねてから満塩政府CIO補佐官と仕事をする機会があり、省外からGovtechの取り組みを眺めている時期もありました。ただ、あえて◯◯テックと意図的に距離を置くようにしていました。それは、彼ら/彼女らがやっていることは至極もっともだし、面白い人が面白い人をさらに引き寄せる力や熱量があって僕は間違いなく本業を忘れてズブズブとハマってしまうだろう――。その恐怖がどこかにありました。

特に経営者としての肩書きがあった時期は活動に割けるリソースに限りがある。「デジタル化推進マネージャーの仕事をやらないか」と声をかけてもらったのは、偶然そうした役職を離れたタイミングで、いよいよ本気で向き合う時が来たな、とわくわくしながら引き受けたのを覚えています。

2.シビックテックとGovtech

―― シビックテックなどのコミュニティの参加者は民間、行政、研究教育、エンジニアやデザイナー、ファシリテーターなどの多種多様です。コミュニティと行政が関わるとどのようなことが期待されるのでしょうか。

 コミュニティとの関わりでよいところは、参加者の反響を通じて自分たちの立ち位置をタイムリーに確かめられる、ということです。いろいろなイベントを通じて参加者からコメントや有識者からの指摘などがどんどん来ます。マズいこと言えば炎上という形でブーイングも来ます。それを手がかりに、100%じゃないにしても僕らのやっていることがおおむね正しいかどうかわかる。ポジションを補正しながら前進できます。

そういう意味で、コミュニティとの関係が重要だし、行政が積極的に情報を発信して一緒に活動していくことが大切です。それを僕たちは「コミュニティ・リレーションズ」と呼んでいますが、PRや広報=パブリック・リレーションズ(Public Relations)のように、行政自ら情報を発信し、コミュニティと良好な関係を築く取り組みをしていくことで、世の中が少しよい方に回っていく原動力になればいいなと考えています。

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経済産業省が主催したGovtech conferenceの第1回は2019年に永田町グリッド(東京)で開催されました。行政職員が参加するワークショップなどが実施されるなど、組織の壁を超えた交流に多くの参加者が刺激を受け日々の仕事を見直すきっかけを得ました。当初100名規模だった参加者は年々増え、5回目となる今年はオンライン開催でしたが登録者数で600名を超えました。

酒井 シンガポールでは首相府の中に「GovTech」とよばれる組織を設置しています。民間から採用したエンジニアやデザイナーとともに、行政サービスのデジタル化を推進しています。経済産業省のDX推進において、この取り組みを1つの参考にしました。ただそれ以前に僕たちはすでにCivicTechの考え方に共感し、行政職員としてではなく一個人としてイベントなどに参加し、こうしたコミュニティのあり方などを学んできました。

Govetechとシビックテックは両輪で、どちらか一方が欠けても前に進めないと思います。

――そのように視点で企画運営した経済産業省主催のGovtech conferenceのねらいはどこにありましたか。

酒井 大きなゴールとして、地方で地に足のついた活躍をされている自治体職員の方をお呼びして光を当てる、得た知見を広く共有してもらい、他の自治体にも課題解決などのヒントにしていただく、ということがありました。そのため地方議会への対応など多忙な時期をなるべく避けた1月に開催しました。いまは年2回を基本に開催しています。

5回目のカンファレンスはコロナ禍でオンライン開催になりましたが、オンライン開催はオフライン開催の単なる代替ではなく、オンラインでしかできないことをやろうと撮影スタジオを用いた映像配信などを取り入れて企画しました。仮に新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたとしても、今後もやり方を模索しながら続くのではないかと思います。

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第5回Govtech conference「自治体ピッチ」の様子


 そういえば、はじめて第2 回目のGovtech conferenceに参加したとき、参加者の盛り上がりがすごかったことを思い出しました。

酒井 Govtech conferenceでは、ファンを作る、ということを意識しています。ファンというのは、コミュニティの当事者です。斜に構えているあなた、イベントに参加してちょっとでも面白いと思ったでしょ、そんなふうに面白いと思ってもらったらもう当事者なんですよ。2021年のGoveTech Conferenceのテーマは「No One Left Behind」でした。直訳すれば誰も取り残さない、ですが、ここにはみんな当事者になろうよ、という思いが込められています。

3.「行政」をハックし続ける

―― 酒井さんはSlackやWorkPlace、Trello、Backlogなどのツールを試験的にまたは実導入してGovtechの企画運営などの円滑化を進めていますが、どのようにして行政の業務を変えてきたのですか。

酒井 「変えよう」と思ってやったことはないですね。そもそも僕らは省内でも異端で情報プロジェクト室のフリースペースのあたりは「なんか変なことをしている連中が出たり入ったりしているな」という冷めた感じで見られていたと思います。苦々しく思っていた人もいるかもしれません。でも嫌悪感というのはある種、興味の裏返しで目を引くんですね。

「そのモニターアーム、いいね」といったところから声をかけてもらって会話が始まり、そのうち「なんかメールやExcelでのやりとり面倒だな」といった悩みを見聞きした時に「こういうツールがいいんじゃないですか」と提案してみたり、またちょっとしたシステムトラブルが起きて現場が混乱した際に前職で培ったトラブルシューティング経験を活かして事態を収めて既存のやり方に対する改善策を示したり。

そんな積み重ねをしながら組織の中で、少しずつ何かが変わり、いつの間にか大きな風が吹いていることに気がついた、という感じです。何か1つの出来事をきっかけに急に風向きが変わった、ということはないです。

 情報プロジェクト室の室長や酒井さんたちがやってきたことは、まさに行政のハック(Hack)だなと思います。法律を逸脱するという意味ではなく、法律の範疇の中でもイベントを立ち上げ継続して当事者を増やし、民間と行政の知見を融合させていく、など、面白いことができる余地がたくさんあることを僕は教えられましたね。

酒井 僕たちが任期付きで採用された非常勤職員だということは大きい意味があると思います。企業などからの出向でもないし、官民人材交流制度での採用でもないです。一年ごとに契約を結ぶので、「来年もう結構」とお払い箱かもしれません。いつまでも居られるわけではないから、居るうちにできるだけベストを尽くしたいという使命感があります。

提案して失敗したら責任をとっていつでも辞めればいい、それで思い切った提案や行動ができるというのはあります。まあ、僕に限らずデジタル化推進マネージャーの人たちは皆、多かれ少なかれ、そんなふうに腹を括ってやっていると思いますよ。

 そうですね。「2、3年後に戻る場所がある」ということで事なかれでその間じっと耐え忍ぶ、といった姿勢とはまったく違いますね。

―― シビックテックやGovtechのように市民や職員一人ひとりが主体となっていく世の中になっていくとすると、行政の役割はどうなるのでしょうか。

酒井 法律を作り、執行するという仕事はなくならないでしょう。そのための知見は並大抵ではありません。法律の解釈、予算要求や財務省との調整、調達などの知見については専門である行政官の力が必要の協力なくして進められません。ただ、情報プロジェクト室でGovtechやシビックテックに関わった行政官の人たちが、情報プロジェクト室の次の異動先で「うわー」と絶句しないかちょっと心配しています。

いまだに紙主体の硬直的な仕事のやり方だとしたらカルチャーショックを受けないかなと。その時には手の動かし方を知った行政官が「こんなやり方もありますよ」と行政の仕事のやり方を変えていってくれるかもしれないと期待しています。

 もともとは秩序ある社会の制度を作るために、中央政府や地方政府というものが少しずつ形作られてきて今のように大きくなったのではないかと思います。ただ、今の時代、世の中で何かちょっとよくしたいと思ったら、いちいち政府に頼むのではなく、自分たちの技術や経験が役立つ可能性があります。

キーボードを叩いてHTMLやCSSをいじってちょっとサイトを改良するとか、Excelを使ってデータをわかりやすく整理してもいい。なんでもよいから手を動かすことの価値や面白さを知ってしまったら、企業人も職員も関係なく、あなたも当事者、やんなきゃね。そういうことが特別ではなく、ごく当たり前になってほしいです。

4.さまざまな「橋渡し」役として

――今後の抱負について一言お願いします。

酒井 振り返ると「つなぐ」というキーワードのもとで仕事をしてきたと思います。行政とコミュニティとの距離を縮め、現場とITのギャップを埋め、デジタル化推進マネージャー間のナレッジの橋渡しをしてきました。幸いこれまで情報プロジェクト室でも情熱のある上司や仲間に恵まれ、他省庁に先駆けてチャレンジする環境に巡り合えるタイミングに居合わせたことは人生の転機になり、気づけば5年経ってしまいました。

その間、もしつまらない上司だったらすぐに辞めていたと思います。これから先はまだわかりませんが、いずれにしてもシビックテックやGovtechの取り組みを応援していきたいと思います。

 情報プロジェクト室には行政と民間の垣根を超えてつなげていく、いい意味でのカオスな文化が作られています。酒井さん達のDNAを受け継いで、拓いてきた道をさらに遠くまで広げていきたいと考えています。

DXの取り組み、「難しくて世の中を変えるなんて自分には関係のない遠い話」と敬遠しがちではありませんか? 自分ができること、ちょっとずつで大丈夫。面白いと思ったあなたはすでに当事者に仲間入りです。



注1:法人デジタルプラットフォームは、補助金申請手続きなどの法人デジタルサービスをワンストップで実現する基盤のこと。事業者は法人番号をキーに認証され、API連携を介して必要なデータにアクセスできる仕組みです。民間のID基盤との連携や政府全体で利用されることを目指して検証・整備が進められています。

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インタビュー日:2021年2月24日
*本レポートの内容は特筆する場合を除いてインタビュー時点の情報に基づきます。



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