「地方自治体のDX、本質は新しい体験価値の提供」Govtech Conference#5後編
4.パネルディスカッション
2つ目のパネルディスカッション「For Tomorrow 〜Govtech推進に必要なこと〜」は、「アフターデジタル」著者で上海在住の藤井保文氏、子育て世代の人口が増えている福津市の副市長 松田美幸氏、地方自治体とのコラボレーションを進めるUrban Innovation Japan吉永隆之氏とモデレーターにCIO上席補佐官の平本氏がGovtechの動きについて話していきました。
現状と今後について、まず地方自治体については松田氏から、LGWANセキュリティもありオンライン会議の概念がなかったところから前提が大きく変わり、市民公募のワークショップや職員テレワーク、子育て支援アプリ開発まで進めていくことができたこと、それによってデジタルの可能性が大きく見えてきたことが共有され、平本氏からもスーパースターだけでなく幹部から現場まで広域に展開していくことが重要であることが語られました。
これに足しいて、海外や民間の事例を踏まえた外からの視点として、藤井氏から「DXの本質は新しい体験価値の提供にあり、技術ドリブンではなくペインポイントを見つけること、市民のニーズから探すことが必要であること、またそのニーズにおいては潜在ニーズを炙り出すことは難しく、刺激に対する反応として始めて顕在化するものだからこそ、プロトタイプを当てていくことが求められるのではないか」と投げかけがありました。
これに対して吉永氏からは、「ペインポイントをしっかり捉えるために現場から声を上げてもらうこと、プロトタイプをつくってユーザーに当てるところまででなく、そこから更にPDCAを回していくことで、実際に使ってもらえるサービスにしていくところまで体験向上へ向かっていける地方自治体を増やしていきたいこと、自治体の規模にかかわらずあらゆるスケールに適した方法があり、若手に権限移譲ができていて機動力の高まっているところに実績が出ていること」が挙げられました。
平本氏からは、行政の仕組み上、価格競争でより安価につくれることが求められたり、ウォーターフォール型になりやすくアジャイル型での提案がしにくいといった実情もあるといったコメントもありました。
また「スマートシティの導入が進み利便性が高まっていくに従って一定の均質化が進んでいくため、その先にはまちの個性を出していくという段階が地方自治体に訪れるのではないか」という藤井氏の予測に対しては、本来はベストプラクティスが共有・転用されていくことが同じプラットフォーム上に乗ることのメリットであり、利便性を高めていくために非常に重要な部分でもあるにも関わらず、取り組み自体で個性を出そうと先走ってしまう部分があること、均質化にも至らない段階で独自性を出すのではなく別の領域でやるべきことなのではないかという課題感があることの二点が今の状態であることが吉永氏から共有されました。
更に、利便性を高めていくにおいて行政の業務として似通うところ共通課題もあるが、同じ解決策で対処できるものは誰がそれを担うのかという部分が空白になってしまう可能性があり、ベストプラクティスを模していくとしても実際に手を動かしていくのは地域ごとにそれぞれのプレーヤーが行うというのが地域の文化や経済の循環、産官学連携になっていくのではないかと考えながら国内で携わっているという吉永氏。
それに対して藤井氏からは、「中国は国の統制力が強さから担保されている部分があること、クリティカルな課題があって予算がついていないというような状況に対しては北欧やデンマークの様なクラウドファンディングを活用するアプローチで地域に思い入れのある人たちから募るのも選択肢としていいのではないか」ということが海外事例として共有されました。
また「行政と地方自治体を民間企業のフレームで捉えるとしたら、理念ビジョンは国(コーポレート部門)が掲げ、事業や実証実験をやっている地方自治体(事業部)から成功事例(ベストプラクティスなど)が出てきた際に国が他の地方自治体にも積極的に周知して、全体のシステムに反映させたりすることができるようになるのではないか」と企業視点でのアイデアも示されました。
デジタル化に向けて広報・宣伝して価値を高めていくなどマーケティング視点など民間が長けている分野を自治体でも取り入れていく必要があるのではないか、組織全体のケイパビリティを高め個人の特徴を活かしていくために今後人材の観点でするべきことは何なのかという投げかけに対しては、目的と還元すべきもの捉えていく姿勢とコンセプトメイクが藤井氏から、行政職員がプロダクトオーナーのような責任意識を持つポストを経験少しずつでもできるように仕立てていくことが吉永氏から、住民をひとまとめにして一方通行でやってきた行政と住民のコミュニケーションスタイルから双方向コミュニケーションに変えていくことでセグメント毎の個別最適化や関心領域への住民参画推進が実現可能になっていくとの事です。
実際に会津若松から宮崎県児湯郡都農町に導入された双方向型ウェブサイトがあり、その小さな町では中学生がコンテンツ制作に携わるなどの独自性が加えられた事例があります。また、ウェブサイトやアプリの開発に取り組む際にデザインリサーチができる人や作ったものから出てきたデータを分析できる人が行政に少ないことが課題点としてあり、「デジタル」「デザイン」「データ」、3つのDを意識した人材育成・発掘が求められていることが松田氏から掲げられました。
5.自治体ピッチ
芦屋市・豊岡市・裾野市・鎌倉市・加古川市それぞれの自治体職員による発表が、ANNAI太田垣氏・情報プロジェクト室室長吉田氏のナビゲートの元進められました。
トップバッターを務めた芦屋市の筒井氏からは、「ゼロから始めるDIY市役所」と題し、宮坂東京副都知事によってTwitterで紹介された「GovtechやDXというけれど…( https://link.medium.com/9bXSjS92web)」に記していた内容から、2017年に行政内部と社会のギャップを意識するようになったこと、そこから3年間でCode forコミュニティなどの外部コミュニティに足を運んでみたり、WebサービスやOSSに触れたり、有志勉強会を開催したり、自分自身を実験台としてチャレンジしていたこと、その延長線上に業務としての市役所変革に取り組むことができるようになったことなどご自身のストーリーを共有しながら、組織改革だからこそ一筋縄ではいかないけれども、できることから始めることができるというメッセージが伝えられました。
続いて谷口氏からは、豊岡スマートコミュニティについて、お互いの顔が見え、住民の幸せに貢献できるようにと取り組んでいる活動として、市役所内の専用スペースや自主勉強会への活用などの事例や、路線バスの半数が休止になり新しい交通体系として、循環バスコバス、市営バスイナカー、住民主体のチクタクの組み合わせを立てたところから足りない担い手を公共から訪問福祉・通所福祉と連携したシェアライドへ向けて実証実験を行なっていること、今後はさらなる横断的な人流・物流整備を目指したLocal MaaSに取り組んでいることが共有されました。
裾野市の長田氏からは「デジタル」と「クリエイティブ」をキーワードとしながら、コンソーシアムを設立し、スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティの実現に取り組んでいること、沼津高専や東京大学生産技術研究所と連携していること、コロナ対策として市民課窓口や確定申告の市役所会場の受付の一部オンライン化を実施したこと、今後は医療や移動手段などをテーマにより暮らしに関わる領域にもアプローチしていきたいと考えていることなどが報告されました。
鎌倉市の竹内氏からは「人にやさしいスマートシティ」として、産官学民の連携に重きをおきながら、民間企業からの短期研修員の受け入れ、企業との協定締結や実証実験の促進、企画段階から住民が参加していくリビングラボ、スマホ講座だけではない高齢者のデジタル機器活用支援などに取り組んでいることが挙げられました。手段が目的化しないように、市民の暮らしをより良くすること考えていくことの大切さや、コミュニケーションを丁寧にとることの大切さとそれ故に時間がかかってしまうこととのトレードオフについても語られました。
decidmの導入が注目されている加古川市の多田さんからは、コロナの影響でタウンミーティングなどがやりにくくなっていった現状において、パブコメの拡大版として市民の声を聞いていくツールとして導入されたこと、従来型を否定しているのではなくチャンネルを増やしていくという意味で効果があったことが、実際にプラットフォーム上に集約されることで未成年を含む多くの人の声が載せられるようになったこと、高校生とのワークショップは満足度も継続意欲も極めて高かったことなどを含めて共有されました。
6.スタートアップピッチ
最後のセッションはスタートアップ6社それぞれの代表者からの発表が、HEART CATCH西村氏・デジタル化推進マネージャー酒井氏のナビゲートで進められました。
妊活支援「ファミワン」の石川氏からは、相談しにくい妊活・不妊治療に関する情報を届け、必要な場合には専門家による遠隔相談も提供することで、金銭的にも負担が減らせる早期啓発の実現に取り組んでいること、これらを企業向け・行政向けにも展開することで幅広く届けられることが伝えられました。
WiseVine吉本氏からは自治体交付税は赤字国債に頼っていて、有限な資金を使うためには古い事業を止めて新しい事業に回すことが必要な状態だが、行政は古い事業を止めることに苦手さがあること、事業を止め切るためのツールとして財政課職員の声から生まれた「EBPM予算ツール」を提供し、財政の見える化・優先順位バイアスの最小化・予算編成納得の最大化に取り組んでいることが紹介されました。
「xID」の日下氏からは、信用コストが低いデジタル社会を実現することを目的として、身分証明・ハンコ・鍵が一つにまとめられるような形を目指して、マイナンバーカードをデジタルIDとして非対面でも利用できるよう、電子の公的署名と同等の機能がスマホアプリから使えるよう、アプリとAPIを開発していること、実際につくば市での実証実験や浜松市、加賀市との連携に取り組んでいること、今後もボトムアップで全国での取り組みが必要であることが共有されました。
市民一人ひとりに合った公共制度届けることができる「Civichat」の高木氏からは、自治体ホームページから制度を調べたり、必要書類を探し出してまとめたり、役所に直接出向いて本人が提出したり、プロセスが多くて市民の負担も高い申請主義を是正し、より多くの人に必要な支援が届くように変えていくために、市民向けのLINEを活用したサービスと自治体向けのポータルを提供していること、熊本市で災害時の支援制度の実証実験をおこなっていることが伝えられました。
「ケイスリー」の鈴井氏からは、忙しい行政職員のために、葉書やポスターでの情報発信を携帯電話のショートメッセージなどで個別に伝えることができるようにすることで、行動経済学に基づい行動を促せるようなアプローチを取り入れられること、情報発信に対する市民の反応・行動を数値で比較検討・分析できるようになること、実際に沖縄県浦添市の大腸癌検診の案内では受診率が6.5倍になったことが紹介されました。
「グラファー」佐藤氏からは、当事者としてまた当事者の家族としてのご本人のストーリーを交えながら、支援対象者がサービス利用に至るまでにある困難さについて共有され、専門用語ではなく対象者にわかりやすい言葉で具体的に説明し、チェックリストに答えるだけで自動でサジェストされるようにすることで、受けられる支援を見つけられるように補助する「お悩みハンドブック」という新しいサービスを立ち上げようとしていることが語られました。
さいごに
以上とても長くなってしまいましたが、各業界の方からのさまざまな視点をインプットにとても濃密な議論ができ、大きな足跡を残せた今回のGovtech Conferenceだったと思います!
最後にダイジェスト版ムービーもありますのでぜひ生の声も聴いてみてください。次回のGovtech Conference Japanもお楽しみに!