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進む貿易DX ~情プロ室の目線から~

貿易と聞いて、自分には関係ないと思われた方もいらっしゃるかもしれません。確かに貿易は社会の黒子。あまり注目されることはありません。ただ、DXの波は確実に貿易の世界にも押し寄せています。

今回は、貿易DXを取り巻く状況と、経済産業省における取組の一端をご紹介します。この記事を通じて、少しでも貿易の世界に興味を持っていただけると嬉しいです。

(注)タイトルの「情プロ室」は情報プロジェクト室の略称です。

1. 日本の貿易の現状

「マスクがどこに行っても売っていないー!」

2020年の初旬、新型コロナウイルスの感染拡大とともに、国内ではマスクの売り切れが続出。日本中がパニックに陥ったのは記憶に新しいところです。

マスクはあくまで一例ですが、日本は貿易取引を通じて、様々なものを海外とやり取りしています。そのため、貿易取引が止まってしまうだけで、経済的・社会的に大きな問題が生じてしまいます。

意外かも知れませんが、日本の貿易額は増加傾向にあり、この30年で輸出額は2.4倍になっています(以下ソース)。現在においても、貿易の重要性は日増しに高まっています。

2. 貿易実務における課題

まさに社会のインフラ。私たちの暮らしを支えている貿易ですが、デジタル化が非常に遅れている分野の一つでもあります。

例えば、貨物を輸出しようとすると、荷主、運送会社、船会社、通関業者、税関、と色々な組織をまたいで情報交換が行われます。この際、紙書類やPDFを使った情報の「バケツリレー」が行われています。

不特定多数の人や組織が絡む性質上、セキュアな方法でのデータ共有が難しく、貿易実務の世界では、未だにアナログなデータ確認・入力作業が数多く残っています。

筆者の郷土である高知県の偉人、岩崎弥太郎(三菱財閥創業者)が海運業で財を成してから100余年、その仕組みは未だに大きく変わってはいません。

ただ、労働力不足やコロナ禍などを受けて、いよいよ貿易の世界も変革を迫られつつあります。まさに、「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)が今こそ求められています。

3.  経済産業省における貿易DX

そんな貿易の世界ですが、野放図に貿易取引が拡大すれば良いということではなく、国際ルールに基づいた秩序を守ることも必要です。

経済産業省ではその一翼を担っており、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)にもとづき、貿易管理の取組を実施しています。例えば、武器や軍事転用可能な貨物の輸出には経済産業大臣の許可が必要とされています。

先に述べた通り、貿易DXは待ったなしの状況であり、この貿易管理分野においてもDXの取組を進めています。その柱となる以下3つの方向性について、概要をご紹介したいと思います。

① 貿易手続きの利便性向上(UX/UIの改善)
② データを活用したサービス改善
③ 海外諸国との連携

①貿易手続きの利便性向上

貿易管理に係る行政手続きは、「NACCS」(ナックス)というシステムによって、既に電子化が実現されています。特に輸出許可に関する手続き電子化は、行政の中でもかなり早期に行われた事例と言えるかもしれません。

ただ、近年のデジタルサービス開発においては、UX(ユーザーエクスペリエンス)が欠かせない視点となっています。この観点から眺めると、現状の仕組みにはまだまだ改善の余地がありそうです。

貿易実務を担当される方々に「ぜひまた使ってみたい」と言っていただける手続システムを目指して、目下取組を進めています。

② データを活用したサービス改善

手続きの電子化を通じて得られたデータをどのように活用していくかも重要なテーマの一つです。

現状、経済産業省への申請手続きが必要かどうか、ホームページ上にガイドラインが出ていますが、これが非常に難解なため、多くの方々から改善要望を頂いています。(中には心が折れてしまう方も。。。)

利用者がどこでつまづいているのか、どういった問い合わせをされているのか。こうした履歴データをAIに学習させることで、例えば、申請支援チャットボットのようなものが作れるのではないかと考えています。

また、データ分析を通じて、省内の業務効率化も期待されるところです。日本全体で高齢化が進む中、霞が関においても労働力不足が深刻な問題になりつつあります。

システムによって代替できる業務は積極的に自動化し、限られた人員でも継続的に業務を遂行できるような体制の構築を目指しています。

③ 海外諸国との連携

貿易というのは相手国があって初めて成立する取引であるため、海外との連携は不可欠です。

経済産業省が所管する手続きの中には、「ワシントン条約」など国際条約で紙による手続きが制度化されているものもあり、その電子化に向けては、国際機関や関係各国との足並みをそろえて推進していく必要があります。

特に近年では、貿易プラットフォーム間でのAPI連携といった動きもあり、海外諸国を中心にデータ規格の策定やPoCが進められています。こうした動きに日本が出遅れないよう、我々も取り組みを本格化させています。

4. 貿易DXのこれから

今、日本の貿易を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。貿易のみならず社会的にも大きな影響を与えるであろう二つのキーワードをご紹介いたします。

一つ目は、「経済安全保障」です。この用語を最近ニュース等で目にすることが増えたのではないでしょうか。

この記事を執筆している最中(2021年10月初旬)に岸田内閣が発足しましたが、経済安全保障の担当大臣が任命され、政策の柱になっています。

米中対立を背景に、「人権デューデリジェンス」といった言葉が登場するなど、民間企業においても海外企業との取引を含む、サプライチェーンの見直しが求められるようになってきています。

各種法令の整備だけでなく、その実効性を支えるDXについても、今後より踏み込んだ対応が求められていくのは間違いありません。

二つ目のキーワードは、「ブロックチェーン」です。ブロックチェーンは貿易実務の世界を大きく変える可能性を秘めています。

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上述の通り、組織横断でのセキュアな情報共有が、貿易実務のデジタル化の大きな障害になってきました。この点、改ざんが困難な特性をもつブロックチェーンは貿易実務と親和性が高いと考えられています。

実際、海外では大手IT企業や国家が主体となり、ブロックチェーンを活用した貿易プラットフォームの構築が進められています。

日本でも、大手IT企業やスタートアップ企業を中心に同様の取組が進んでおり、ブロックチェーンを活用した貿易手続きの完全電子化が期待されています。

行政機関としても、こうした最先端のテクノロジー動向を常に収集し、キャッチアップしていくことで、より良い行政サービスを提供できると考えています。

日本の貿易の更なる発展に向けて、引き続き努力してまいります。