行政手続のオンライン化に欠かせない“デジタル手続法”
はじめまして。DX室の井垣友貴と申します。
昨年7月に警察庁から出向となり、現在はDX室の一員として、経済産業省DXの推進に携わっています。
本記事では、法令担当として、これまでの経験や知見等を踏まえて法令の視点から“行政手続”のオンライン化においてベースとなる“デジタル手続法”について、ご紹介したいと思います。
“行政手続”のオンライン化について~法令の視点から~
単純に”手続”のオンライン化を進めるためには、これまでの書面や対面でのやり取りに代えて、システムや電子メールでやり取りができるようにするだけでいいのでは?と思われるかもしれません。
しかし、それが“行政手続”となると大きな壁が立ちはだかります。
それが「法令」です。
“行政手続”は基本的に法令に基づいており、書面の様式や提出方法といった具体的な事項についても法令で定めている場合が多いです。
ここで課題となるのは、根拠となる法令において「○○書で提出すること」などと書面で行う旨が定められているものの、オンラインでの手続については規定されていない場合があることです。
したがって、”行政手続“のオンライン化のためには、根拠となる法令を一つ一つ改正し、オンライン化が可能となる旨を定めなければなりません。
しかしながら、膨大な数の法令を一つ一つ改正することは、多大な時間と労力が掛かります。
そこで、根拠となる法令を一つ一つ改正せずとも行政手続のオンライン化を可能とするため、平成14年に通則法である「行政手続オンライン化法(※)」が制定され、さらに、令和元年に同法が改正され、“デジタル手続法”となりました。
デジタル手続法とは
デジタル手続法の正式名称は、“情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成14年法律第151号)”といいます。
現在、デジタル手続法の所管省庁はデジタル庁となっています。
デジタル手続法では、他の法令において書面等で行う旨が定められている行政手続(申請や処分通知等)について、オンライン化が可能となる旨が定められています。
したがって、デジタル手続法が通則的に適用されることで、法令を一つ一つ改正せずとも行政手続のオンライン化が可能となります。
例えば、デジタル手続法では、申請等のオンライン化規則が下記のとおり定められています。
デジタルにも関わらずカタカナがなく、非常わかりにくいかと思いますが、要するに「根拠となる法令において書面等で申請等を行う旨が定められている行政手続」について、「主務省令に規定されている方法」であれば、オンライン化が可能となるということです。
なお、申請等以外にも、デジタル手続法では「処分通知等」、「縦覧等」、「作成等」についても規定されています。
オンライン化の手法は"主務省令"で決まっている
行政手続のオンライン化にあっては、個々の行政手続の事情に応じたオンライン化手法を採る必要があります。
そのため、すべての行政手続におけるオンライン化手法を統一的に定めるのではなく、“主務省令で定めるところ”とすることで、各府省庁がオンライン化手法をそれぞれ定められるようにしています。
例えば、以下のようなものがあります。
デジタル庁の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(令和三年デジタル庁令第三号)
経済産業省の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(平成十五年経済産業省令第八号)
経済産業省が所管する主務省令
前述のとおり、デジタル手続法における主務省令は各府省庁が個々の行政手続の事情に応じて定めています。
そのうち、経済産業省が所管する主務省令として、以下2省令があります。
経済産業省の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(平成十五年経済産業省令第八号)
関係行政機関の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(平成十六年内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省令第一号)
上記1については、経済産業省が“単独”で所管する法令に基づく行政手続についてのオンライン化規則となっており、上記2については、経済産業省が“他の府省庁と共同”で所管する法令に基づく行政手続についてのオンライン化規則となっています。
(以降、上記1=“単管省令”、上記2=“共管省令”といたします。)
経済産業省における“申請等のオンライン化手法”
ここでは例として、申請等のオンライン化手法についてご紹介します。
以下は“単管省令”における申請等のオンライン化手法を定めた条文です。
またまたわかりにくいかと思いますが、要するに「電子署名+電子証明書」、「情報システム(ID/パスワード方式)」、「電子メール」をオンライン化手法として定めています。
「電子署名+電子証明書」
電子署名と電子証明書を使用する方式です。
「情報システム(ID/パスワード方式)」
識別符号(ID)と暗証符号(パスワード)を使用する方式です。なお、単管省令第4条第8項において、パスワードに代えて(又は加えて)、二要素認証や生体認証も可能である旨を定めています。
「電子メール」
電子メールを利用する方式です。なお、電子メールを利用する場合は、なりすましが容易であることから、単管省令第4条第9項において、事前に申請者(電子メールの送信者)が本人であるかの確認作業を行う必要がある旨を定めています。
“共管省令”については、下記のとおり申請等の方法は具体的に規定されておらず、“別に定める措置”で行うこととなっています。
その理由としては、デジタル手続法における主務省令と同様、複数の府省庁が共同で所管する法令に基づく行政手続についても、オンライン化手法を各府省庁においてそれぞれ別に定められるようにするためです。
この点、経済産業省では“別に定める措置”として、電子情報処理組織による申請等に関する告示(平成十五年経済産業省告示第二十号)において、単管省令と同様に以下の方法をオンライン化手法として定めています。
「電子署名+電子証明書」
「情報システム(ID/パスワード方式)」
「電子メール」
経済産業省では、政府方針(※)を踏まえ、令和7年末までに申請等のオンライン化100%を目指しています。行政手続のオンライン化を推進していくにあたり、常に法令も見直しを進めていく必要があると思います。
おわりに
今回は法令の視点から“行政手続”のオンライン化における“デジタル手続法”の役割と経済産業省における申請等のオンライン化に関する規程についてご紹介させていただきました。
(他の論点はまた次の機会にさせていただきます。)
デジタル技術のもたらす便益・社会的価値の向上は極めて大きく、社会情勢の変化に伴って困難化する諸課題の解決において必要不可欠なものとなっています。
そのためにも、法令によって、デジタル技術の活用が遅れることはあってはなりません。
私としましても、今後、ますます発展していくデジタル技術を積極的に活用していくためにも、常に最新の技術動向を把握するとともに、その活用を前提とした法令の在り方を常に見直していく必要があると考えています。
(もちろん、警察庁からの出向者としては、デジタル技術を悪用した新たな犯罪の発生も見過ごせませんが・・・)
DX室では「デジタルで経済産業省から行政を変えていく」というミッション(★)を掲げているところ、デジタル社会における法令の在り方においても、行政をリードしていくという気概をもって取り組んでいきたいと思います。
★ DX室のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)については、以下の記事をご覧ください。